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富山地方裁判所 昭和59年(ワ)16号 判決

原告 藤岡邦弘

右訴訟代理人弁護士 児島平

同 清水良二

被告 株式会社 男子専科パリ

右代表者代表取締役 金坂光一郎

右訴訟代理人弁護士 宮澤正剛

主文

一  被告は、原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する昭和五六年八月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五六年八月一一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、藤岡弘の芸名で昭和三九年松竹映画よりデビューし、以降昭和四五年までの間に数一〇本の映画に出演し、昭和四六年よりフリーとなって、目下、株式会社三貴プロダクション(代表取締役原告)に所属するテレビ、映画俳優である。

原告の主要な出演作品は別紙主要作品一覧表記載のとおりである。原告は、このように著名な二枚目スターとして、その男性的魅力と重厚な演技により、俳優としての評価と地位はゆるぎないものとなっている。

(二) 被告は、富山県下に数店舗をもつ各種洋服類の製造販売及び洋品類の販売を目的とする会社である。

2  被告の本件広告

被告は、次のとおり、被告の商品の宣伝広告のため、原告の氏名及び肖像を使った宣伝広告(以下「本件広告」という。)をした。

(一) 新聞広告

昭和五六年一月一日から同年七月一八日ころまでの間に、別紙新聞広告掲載一覧表記載のとおり、富山新聞に九回、北日本新聞に九回、北陸中日新聞に七回、読売新聞に九回、本件広告を掲載した。

(二) ちらし

右各新聞紙上掲載時である各売出時に、本件広告のちらしを各新聞に折り込み、大量に頒布した。

(三) テレビコマーシャル

昭和五六年一月から八月上旬までの間、北日本放送及び富山テレビのゴールデンタイムに、一か月七、八回、約三〇秒のスポットの本件広告を放映した。

3  不法行為責任

被告は、原告に無断で、被告の営利目的のため前記のとおり本件広告をし、原告の氏名権及び肖像権を侵害したものであるから、民法七〇九条に基づく不法行為責任がある。

4  損害

原告は、被告の不法行為により、次のような損害を被った。

(一) 財産的損害 金二〇〇〇万円

(1) 原告のような俳優やスポーツ選手等は、自ら勝ち得た名声のゆえに、商品の宣伝広告のため、自己の氏名や肖像を対価を得て第三者に専属的に利用させ得る利益を有している。この場合の氏名や肖像は、人格的利益とは異質の独立した財産的・経済的利益を有する。

(2) 俳優が氏名及び肖像を無断使用された場合の損害額は、宣伝広告のため、その使用を許諾したと仮定した場合に受け得べきであった報酬に相当する。

原告のようにトップクラスに属する俳優の場合、広告出演料は年間契約しか締結せず、氏名及び肖像の使用回数によって変動はなく、また広告使用の地域の広狭によっても差異はない。原告の出演料は通常一年契約で二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円である。そして、被告のような一地方の小売店の場合、原告の広告出演はイメージダウンとなるため、通常の広告出演料より増額することになる。

被告は前記のように原告の氏名及び肖像を商品の宣伝広告のため大量に使用していたから、これによる原告の財産的損害は、一年分の広告出演料相当額としての二〇〇〇万円を下らない。

なお、被告が昭和五六年一月から同年八月までの間、本件広告にかけた費用は、新聞、ちらし及びテレビを含めて合計約二〇〇〇万円である。被告は、右金額をかけるだけの効果があるからこそ、本件広告をしたのであるから、仮に原告と広告出演契約を締結していた場合、原告に支払う報酬額としては二〇〇〇万円が相当な金額で、右損害額も妥当な金額といえる。

(二) 精神的損害(慰謝料) 金一〇〇〇万円

原告は、正規に広告出演の依頼があった場合でも、これに応じるか否かは、原告の俳優としてのイメージを上げるか下げるかなど種種の点を考慮して決定している。

ところが、被告は無断で原告の氏名及び肖像を使用し、その問い合わせにも使用を隠匿否定して責任を免れようとするなど極めて悪質な氏名肖像権の侵害である。しかも、被告は本件広告において原告をその専属モデルとして表示し、あたかも原告をして地方の洋服小売店の専属モデルとしてのイメージを見る者に与えたものであり、原告にとっては大きなイメージダウンとなった。

このようなわけで、原告は多大な精神的打撃を受けたので、その慰謝料としては一〇〇〇万円が相当である。

5  結論

よって、原告は被告に対し、不法行為による損害賠償として金三〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五六年八月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項(一)の事実は知らないが、同(二)の事実は認める。

2  同第2項(一)(三)の各事実は認めるが、同(二)の事実は否認する。

3  同第3項の事実は否認する。

4  同第4項の事実は否認する。

被告は、後記のとおり、昭和五四年一月から昭和五五年一二月まで本件広告を使用してきたものであって、昭和五六年一月から同年八月までの使用方法もまた従来と同様であったから、これによって、にわかに原告がイメージダウンしたということはできない。しかも、被告が本件広告に使用の原告の写真は、すべて後記ベガショップ契約に基づき撮影されたものであって、原告がその後になんの労力も提供していないのであるから、仮に原告の損害額を算定するにしても、新たに広告出演契約した場合を基準とするのは適当でないし、また被告が本件広告を使用したのは富山県内だけであり、全国的規模の宣伝広告と比較することはできない。

三  被告の主張

被告の本件広告による商品の宣伝広告は、次のとおり、違法性がなく、また被告に故意過失もない。

1  原告は、昭和五三年一一月、株式会社ベガクラブ(以下「ベガクラブ」という。)との間で、昭和五四年一月一日から同年一二月三一日までの一年間、原告がベガクラブ(直営店及び加盟店、そのチェーン店)の販売する商品の宣伝広告のため、専属キャラクターとして出演する旨の広告出演契約(以下「広告出演契約」という。)を締結した。

そして、広告出演契約は翌五五年以降も継続されていた。

2  被告は、昭和四九年九月ごろベガクラブとの間で、被告がベガクラブから一定わくの商品を仕入れ、その指示に従ってこれを販売し、他方、ベガクラブ開発のプラン、システム、セールス用具の使用等の提供を受ける旨など約定のベガショップ契約(以下「ベガショップ契約」という。)を締結した。

そして、ベガショップ契約はその後も自動的に継続されていた。

3  被告は、ベガショップ契約に基づき、ベガクラブから昭和五四年一月以降送付の原告の氏名及び肖像のスチール写真などを本件広告に利用していたものである。これに対し、被告はベガクラブにキャラクター負担金として年間約一五万円を支払っていた。

4  被告は、昭和五五年一〇月ごろ、ベガクラブから、昭和五六年度に使用するためのバーゲンセールや特別販売企画用の、原告のスチール写真の送付を受けたので、これを本件広告に利用していた。

ところが、被告は昭和五六年八月ごろ原告の方から、広告出演契約が切れているのではないかとの連絡を受けた。被告は、突然のことで何のことかと驚き、直ちにベガクラブに問い合わせたところ、ベガクラブが経営困難に陥って倒産するとか、倒産したとかということも聞いたので、本件広告の使用を中止した。とに角、被告は、本件広告の使用につき、右時点まで誰からもなんら連絡がなかったし、他方、原告も肖像写真の使用を禁ずるとか、これを回収するなどの措置を全くとらなかった。

5  以上のとおりであるから、被告は、広告出演契約及びベガショップ契約に基づき、本件広告を使用してきたのであり、仮に広告出演契約が期限切れになっていたとしても、右使用について被告に故意過失はなかった。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張第1項の事実のうち、広告出演契約が昭和五六年一月一日以降も継続されていたことは否認し、その余は認める。

広告出演契約は、後記のとおり、ベガクラブが昭和五五年一〇月開催の役員会で同年末限り打ち切る旨決議し、昭和五六年以降打ち切られている。

2  同第2項の事実は知らない。

3  同第3項の事実は知らない。

4  同第4項の事実は否認する。

広告出演契約は、ベガクラブが昭和五五年一〇月の時点で既に打切りを決めていたのであるから、この時期に昭和五六年度に使用するための原告のスチール写真を被告あてに送ることはあり得ない。

被告が昭和五六年以降新聞に本件広告として使用の原告の写真は、原告が昭和五四年に撮影し、同年度の広告に使用するためベガクラブに送付したものである。

原告が、被告の本件広告の無断使用を知るに至った経緯は、次のとおりである。

原告は、昭和五六年八月上旬、映画関係者から、富山で被告のテレビコマーシャルに原告が出ていた旨聞いたので、所属する三貴プロダクションにおいて、同月下旬、被告の広告代理店である読売連合広告社に問い合わせたところ、昭和五六年以降、被告において広告に原告の氏名及び肖像を一切使用していない旨の回答を得た。ところが、昭和五八年夏ごろ、再び原告が広告に出ている旨の指摘を受けたので、三貴プロダクションにおいて本格的に調査した結果、被告の本件広告の無断使用が判明した。そこで、三貴プロダクションは、被告あての昭和五八年一〇月四日付内容証明郵便で、その説明を求めたが、被告はなんら回答しなかった。

5  同第5項の事実は否認する。

被告は、次のとおり、広告出演契約が昭和五六年以降打ち切られたことを承知していた。

ベガクラブは、昭和五五年一〇月開催の役員会で広告出演契約を同年末限りで打ち切る旨の決議をしたうえ、同年一一月、その旨を被告を含むベガクラブの全加盟店あてに簡易書留郵便で通知した。そして、昭和五六年一月下旬に開かれた被告会社代表者が出席のベガクラブの新年総会においても、広告出演契約の打切りが発表された。したがって、ベガクラブの加盟店会員で、昭和五六年以降本件広告を使用していたのは被告だけである。

仮に被告が広告出演契約の打切りを知らなかったとしても、被告には重大な過失がある。すなわち、被告は、ベガクラブからの通知により広告出演契約が年間契約であることを知っているうえ、ベガクラブから昭和五六年度も広告出演契約を継続する旨の通知も、使用料の請求も受けていなかったのに、ベガクラブに再契約の確認をすることもなく、なんら使用料も支払わないで昭和五六年以降も本件広告を使用していたものであるから、被告には重大な過失がある。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者

請求原因第1項(二)の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》によると、原告は、藤岡弘の芸名で昭和三九年に松竹専属の俳優として映画界にデビューし、以来昭和四五年ごろまでの間に二〇数本の映画に出演し、昭和四六年にはフリーとなって映画のほかテレビにも数多く出演し、目下、株式会社三貴プロダクションに所属するテレビ映画俳優であり、その主な出演作品が別紙主要作品一覧表記載のとおりであることが認められる。

二  被告の本件広告

請求原因第2項(一)(三)の事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》を総合すると、被告は、その商品の宣伝広告のため昭和五六年一月から同年七月ごろまでの間、一か月に約二回、本件広告のちらしを富山市内等に配達される新聞に折り込み頒布したことが認められる。

三  不法行為責任

1  《証拠省略》を総合すると、被告の本件広告の経緯は次のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  ベガクラブ(本社・京都市中京区)は、昭和四六、七年ごろ、衣料品メーカー及び同小売店の相互発展を図るため、商品等の企画、共同仕入れ、共同販売促進等の事業を行うことを目的として設立された。

ベガクラブは株主である会員と株主でない会員を有し、昭和五五年当時、ほぼ全国にわたり衣料品メーカー約四〇社、小売店約二〇店が会員となっていた。

被告は昭和四九年ごろベガクラブとの間で、有効期間を一年間とし、双方異議なければ自動的に延長する定めの被告主張のようなベガショップ契約を締結し、ベガクラブの株主会員となった。被告は右会員として二〇〇万円余を出資し、会費として年間三六万円を納入していた。そして、右ベガショップ契約は昭和五〇年以降も自動的に期間延長により継続されていた。

(二)  ベガクラブは、昭和五三年ごろ、商品の共同販売促進のため、原告を専属キャラクターとして宣伝広告に使用することを企画し、原告が所属する三貴プロダクション等と交渉した。その結果、同年一一月、ベガクラブ、株式会社大広、原告及び株式会社三貴の四者間で、被告主張のような広告出演契約が締結された(ベガクラブと原告との間で右日時に広告出演契約が締結されたことは当事者間に争いがない。)。右広告出演契約において、ベガクラブは原告又は株式会社三貴に対し、契約金(報酬)として一〇〇〇万円、テレビコマーシャル出演料として七〇万円、スチール撮影出演料として五〇万円を支払う旨約定した。

そして、ベガクラブは昭和五三年一二月一日ごろ被告に対し、右広告出演契約の締結とその利用負担金(撮影実費及びポジ一〇枚、写真九枚を含む。)が一五万円となる旨通知した。

その後、ベガクラブは右広告出演契約に基づいて撮影制作の原告の写真類を被告に送付し、他方、被告は右利用負担金を支払って、これを本件広告として富山県内の新聞及びその折込み用ちらし、テレビコマーシャルに使用していた。

右広告出演契約は、契約期間満了前、従来同様の契約を継続するにあたっての契約金額をめぐり、ベガクラブと三貴プロダクションらとの間で折衝が重ねられ、その結果、昭和五五年一月に入り、ベガクラブ、株式会社西広、原告及び株式会社三貴の四者間で、契約期間を昭和五五年一月一日から同年一二月三一日、契約金(報酬)を八八八万八八八八円とする二回目の広告出演契約を締結した(ベガクラブと原告間で広告出演契約が右契約期間継続されたことは当事者間に争いがない。)。

かくて、従来同様、ベガクラブは原告の写真類を被告に送付し、被告は右利用負担金を支払って、これを本件広告に利用していた。

(三)  ところが、ベガクラブは昭和五五年一〇月の役員会で、同年一二月三一日をもって契約期間が満了する広告出演契約につき、資金面の都合がつかないため再契約の締結を断念し、これを打ち切る旨の決定をした。そして、その旨を同年一一月被告を含む全会員あてに簡易書留郵便で通知した。

なお、右契約の打切りは、被告会社代表者も出席の昭和五六年一月下旬に開催されたベガクラブ新年総会の席上でも発表された。

ベガクラブの会員は、被告を除き、昭和五六年以降本件広告を使用していない。

被告は、前記二の本件広告につき、従来と同じような内容方法等による広告をしていたものの、これまでのように利用負担金をベガクラブに支払ったことがない。そのうえ、右の本件広告は、被告が前記のとおり昭和五四年にベガクラブから送付を受けた原告の写真類を使用したものであった。右写真類は、広告出演契約において、原告及び株式会社三貴が契約期間満了後にベガクラブから回収を受けるものとされていたのに、回収されないまま被告が保管していたものであった。

(四)  三貴プロダクションは、昭和五六年八月ごろ、原告が富山のテレビコマーシャルに出演している旨聞知し、被告の広告代理店である株式会社読売連合広告社に電話で問い合わせたが、これを否定されたので、それ以上の調査もしなかったところ、昭和五八年夏ごろ、再び右出演事実があった旨聞き、本格的に調査した結果、前記二のような被告の本件広告が判明した。

そこで、三貴プロダクションの総務担当の丹芳男は昭和五八年一〇月四日ごろ被告に到達の内容証明郵便をもって、右事情を問い合わせた。しかし、被告は右問合せに直接返答もせず、その後、丹から電話で右事情を尋ねられた際、始めて広告出演契約が契約切れになっていることは知らなかった旨返答するに至った。

なお、ベガクラブは昭和五六年七月ごろ倒産し、そのころ京都地方裁判所で破産宣告を受けた。

2  以上の事実によれば、被告は、昭和五四年一月一日から昭和五五年一二月三一日までの間、ベガクラブとのベガショップ契約に基づき、ベガクラブが原告との間で締結の広告出演契約によって本件広告を使用していたことは明らかであるけれども、昭和五六年一月一日以降における前記二の本件広告は、被告において、広告出演契約が昭和五五年一二月三一日をもって失効したことを知りながら、つまり、昭和五六年以降商品の宣伝広告に原告の氏名及び肖像を使用できないことを知りながら、あえてこれを行ったものと推認される。

そうすると、被告は、前記二の本件広告につき、原告の氏名及び肖像を無断使用したものというほかないから、これによって被った原告の損害を賠償する不法行為責任がある。

被告は、前記二の本件広告につき、違法性がなく故意過失もない旨主張し、被告会社代表者尋問の結果中には、これに符合するかのような趣旨部分があるけれども、前掲各証拠と対比するとたやすくこれを信用できず、他にこれを肯認できる証拠はない。

四  原告の損害

1  財産的損害

原告は、前記一認定のとおりのテレビ、映画俳優であって、ベガクラブとの間の広告出演契約において、商品の宣伝広告に一年間出演するための契約金(報酬)として、昭和五四年が一〇〇〇万円、昭和五五年が八八八万八八八八円のほか、テレビコマーシャル、スチール撮影の各出演料を得ていたのであるから、原告が自己の氏名及び肖像について財産的利益を有していたことが認められる。そして、被告が昭和五六年以降原告の承諾を得ることなく、その氏名及び肖像を商品の宣伝広告に使用したこともさきに認定したとおりであるから、原告の財産的利益が侵害されたことは明らかである。

原告の右財産的利益の侵害による損害額は、前記二の本件広告がその内容、態様等において広告出演契約当時と変りがなく、かつ、その延長線上にあることにかんがみると、右契約金(報酬)を基準とし、その妥結経緯、広告の期間及び地域等を併せ考慮して算定するのが相当である。

《証拠省略》を総合すると、最初の広告出演契約の契約金一〇〇〇万円は、原告側において、原告の氏名及び肖像がベガクラブさん下の全国における小売店約一〇〇店舗の宣伝広告に使用されるものであることを了解し、これを前提とした金額であり、かつ、当初右契約金として二〇〇〇万円を請求していたが、ベガクラブの要請を受けて半額に譲歩したものであること、また二回目の広告出演契約の契約金八八八万八八八八円も、原告側において、当初前年の契約金額より下回ることからこれを拒否していたものの、同じくベガクラブの要請を受けて減額譲歩したものであることが認められる。

しかも、被告の前記二の本件広告は、その期間が二回目の広告出演契約の契約期間に引き続く約八か月間であって、その広告地域もほぼ富山県内にとどまっていることもさきに認定したとおりである。

以上の諸点を併せ考慮すれば、被告の前記二の本件広告による原告の財産的損害額は一〇〇万円と認めるのが相当である。

原告は、右損害として広告出演料相当額の二〇〇〇万円を下らず、そもそも原告の場合、広告出演の回数及び地域の広狭によって広告出演料に差異がない旨主張し、《証拠省略》中にはこれに符合する供述部分があるけれども、右認定の広告出演契約における各契約金額及びその妥結経緯等に照らしてたやすくこれを信用できず、右主張は採用できない。

2  精神的損害

前記認定のような原告の職業及び地位、被告が前記二のような態様の本件広告をするに至った経緯及びその後における原告側と被告の対応等のほか、原告が右広告によって俳優としての評価が格別下がった証拠もないことなど諸般の事情を考慮すると、右広告による原告の慰謝料としては五〇万円をもって相当と認める。

五  結論

以上のとおりであるから、被告は原告に対し、不法行為による損害賠償として金一五〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五六年八月一一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を適用し、なお、仮執行宣言の申立てについては相当でないからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田清 裁判官 林道春 林正宏)

〈以下省略〉

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